インターネットによるMSMのHIV感染予防に関する行動疫学研究−REACH Online 2008−

1999年から開始したゲイ・バイセクシュアル男性対象のインターネット調査ですが、累積で2万人を超える方々に研究に参加していただいております。
2008年に実施したREACH Online 2008(実施時期:2008年7月18日〜2009年1月6日)でも、たくさんの方々にご協力いただくことが出来ました。どうもありがとうございました。主な研究結果を速報としてご報告します。詳細は「ゲイ・バイセクシュアル男性の健康レポート3」として今後、まとめることを計画しています。

研究実施者
平成20年度厚生労働科学研究費補助金 エイズ対策研究事業
インターネット利用層への行動科学的HIV予防介入とモニタリングに関する研究

  • 日高 庸晴(関西看護医療大学看護学部 講師)
  • 本間 隆之(山梨県立大学看護学部 講師)
  • 木村 博和(横浜市健康福祉局保健政策課 医師)

主な研究結果

有効回答数5,525件であり、平均年齢は31.6歳(SD=9.4, 最少13歳〜最高84歳)でした。 居住地域は北海道・東北地方が7.5%、関東地方(東京都を除く)21.0%、東京都24.4%、北陸・信越地方2.8%、東海地方(愛知県を除く)4.3%、愛知県5.9%、近畿地方(大阪府を除く)9.0%、大阪府10.3%、中四国5.7%、九州・沖縄地方(福岡県を除く)4.5%、福岡県3.3%、無回答は1.4%でした。

居住形態は、ひとり暮らし41.3%および家族と同居38.4%が大半を占めました。

年収は100万円未満17.6%、100〜200万円9.0%、200〜300万円14.8%、300〜400万円16.7%、400〜500万円12.0%、500〜600万円8.8%、600〜700万円6.0%、700〜800万円3.8%、800〜900万円2.3%、900〜1,000万円1.4%、1,000万円以上6.2%でした。

最終学歴は大学卒以上が56.2%であり、職業は常勤(正規雇用)が53.3%と最も多く、次いで学生16.9%、常勤(非正規雇用)10.8%でした。

自認する性的指向は男性同性愛(ゲイ)68.1%、両性愛(バイセクシュアル)26.6%、その他・わからない・決めたくない4.6%でした。

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過去6ヶ月間の性的活動状況

全体の41.4%が過去6ヶ月間にいずれかの商業的ハッテン場を利用した経験があり、ゲイバーは45.8%、インターネットで知り合った男性とセックスは48.0%でした。年齢層と性的活動および利用施設の種類に違いがみられました。

表1.これまでの性的活動状況(年齢階級別)

表2.過去6ヶ月間の性的活動状況(年齢階級別)

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過去6ヶ月間のセックスの相手

過去6ヶ月間のセックスの相手の種別は特定のみ28.7%、不特定のみ31.3%、特定と不特定の両方40.0%でした。

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過去6ヶ月間のコンドーム使用状況

全体の87.2%が過去6ヶ月間に男性とのセックス経験があり、そのうち過去6ヶ月間のアナルセックス経験割合は81.5%でした。過去6ヶ月間にアナルセックス経験者におけるコンドームを使わない無防備なセックス(Unprotected Anal Intercourse、UAI)経験割合は48.5%であり、年齢層によって違いが見られました。

表1.これまでの性的活動状況(年齢階級別)

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ゲイツーリズム(国外への旅行)

過去1年間のプライベートな海外旅行経験割合は全体の19.9%(1,102人)であり、うち68.1%(750人)はアジア諸国への旅行でした。国別ではタイ・台湾・韓国・中国・香港の順で、アジア旅行経験者のうち、33.2%は旅先で出会った男性とのセックス経験があり、そのうち62.2%はアナルセックスがあり、コンドームを使わない無防備なセックス割合は32.9%でした。

図1. 旅行先での行動(アジア)
表4.過去1年間に海外旅行経験者の旅行先割合

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生育歴における出来事

これまでの学校教育での同性愛に関する情報の取り扱い状況について尋ねました。「一切習っていない」76.1%、「異常なもの」4.1%、「否定的な情報」10.2%を合わせると全体の9割以上が不適切な対応をされていることが示されました。異性間を対象にしたエイズ予防教育を受けた割合は49.6%である一方、男性同性間のそれは12.7%と低率でした。この結果はこれまでの調査結果とほぼ同様の傾向でした。

ゲイあるいはバイセクシュアルといった性的指向に気付いた時に66.2%が悩んだ経験があり、44.1%はそれを相談したいと思ったことがあり、実際に相談することが出来たのは24.7%でした。 さらに、異性愛を中心とする社会の中で、結婚のプレッシャーを感じた経験がある者は48.8%、男性とのセックス後に罪悪感を感じた者は38.7%であり、「ホモ・おかま・おとこおんな」といった性的指向に関連する言葉による暴力被害経験割合は54.0%でした。

表5.これまでの学校教育(授業など)で、同性愛について得た情報 (年齢階級別)

表6.生育歴における出来事(年齢階級別)

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心の健康状態−抑うつ−

抑うつ状態であるかどうかを簡易に判断するための標準化された質問項目であるCES-Dによるスクリーニングの結果(cut off pointは16点)、42.3%が抑うつ群と判断され、その傾向に地域差はありませんでした。その一方、年齢層と抑うつ状態には明らかな関連があり、若年層に抑うつ割合が高いことが示されています。

表7.抑鬱割合(年齢階級別)

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性感染症の既往歴とHIV感染の身近感

性感染症の生涯既往歴(医療機関で診断された経験割合)は全体で22.6%、過去1年間では7.8%でした。既往割合が高かった病気は梅毒(7.6%)、クラミジア(5.7%)、B型肝炎(5.6%)、HIV(4.5%)、淋菌感染症(3.8%)などでした。

表8.性感染症既往経験(年齢階級別)

19.4%が自分の身の回りにHIVに感染している人がいると回答しており、特に東京都在住者では29.5%、大阪府では26.1%であり、都市部ではHIV陽性者の存在を身近に感じる者が多いことが示唆されています。さらに、HIV以外の性感染症既往経験のある友達の存在は全体で34.1%、東京都44.5%、大阪府39.6%でした。また、自らのHIV感染の可能性を感じている者は全体の55.4%であり、居住地域に関わることなく2人に1人は感染可能性を認知していることが示されました。

表9.HIV感染の身近感(居住地域別)

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まとめ

皆様にご協力いただいたアンケートの結果から、主な点をご紹介させていただきました。

私どもが国内で初めてインターネット調査を実施してから10年が経ちました。調査のたびに綿密な検討を重ねて質問項目を練っているのですが、毎回の調査で必ずお聞きする定番質問項目と、その時々で新たに加える質問項目があります。今回は“ゲイツーリズム”つまり、みなさんの旅行先と旅行先での性行動についてわが国の研究としては初めて大きく取り上げました。海外旅行の行き先として最も多かったのがアジアであり、約1/3の人が旅先での新たな出会いとセックスを経験されていることが今回初めて明らかになりました。旅先での性行動に関しては、普段はセイファーセックスできている人でも、旅先の解放感からついコンドームを使えなくなってしまうのか、それとも旅先も普段も変わらずコンドームを使えないのかなど、本報告ではお示ししていない情報も含めて「ゲイ・バイセクシュアル男性の健康レポート3」としてまとめることを計画しています。

今後はさらに詳細な分析を通じて、わが国のゲイ・バイセクシュアル男性の心と体の健康増進に役立つ情報を提供することによって、国や地方自治体などにおける、より有効な健康支援対策の立案・実施に貢献していきたいと考えております。

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発表論文等

和文

  1. 日高庸晴. 
    MSM(Men who have Sex with Men)のHIV感染リスク行動の心理・社会的要因に関する行動疫学的研究.
    日本エイズ学会誌10:175-183, 2008
  2. 奥田剛士、日高庸晴、兒玉憲一.
    首都圏のゲイ・バイセクシュアル男性におけるHIV楽観論とHIV感染リスク行動および心理的要因との関連.
    日本エイズ学会誌10:191-199, 2008
  3. 日高庸晴. 
    性的指向による健康格差とHIV感染の脆弱性、
    人間福祉学研究1:22-30, 2008

英文

  1. Hidaka, Y., Operario, D., Takenaka, M., Omori, S., Ichikawa, S., Shirasaka, T.
    Attempted suicide and associated risk factors among youth in Japan.
    Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology 43:752-757, 2008
  2. Hidaka, Y., Operario, D.
    Hard-to-reach populations and stigmatized topics: Internet-based mental health research for Japanese men who are gay, bisexual, or questioning their sexual orientation. Internet and Suicide (Ed. Sher L).
    Nova Science Publishers (New York), In press
  3. Homma, T., Ono-Kihara, M., Zamani, S., Nishimura, Y., Kobori, E., Hidaka, Y., Rabari, SM., Kihara, M.
    Demographic and behavioral characteristics of male sexually transmitted disease patients in Japan: a nationwide case-control study.
    Sexually Transmitted Diseases 35:990-996, 2008

学会発表

国内

  1. 日高庸晴、木村博和、本間隆之、市川誠一.
    インターネット利用MSMの行動疫学調査REACH Online 2007−第1報−コンドーム常用状況とHIV抗体検査受検行動.
    第22回日本エイズ学会.2008年、大阪
  2. 日高庸晴、木村博和、本間隆之、市川誠一.
    インターネット利用MSMの行動疫学調査REACH Online 2007−第2報−HIV陽性者のHIV感染告知時の状況.
    第22回日本エイズ学会.2008年、大阪

海外

  1. Hidaka, Y.
    HIV pandemic : Sexual orientation and Health issues among Japanese Men who have Sex with Men.
    Taiwan-Japan Civil Society Forum, November28-30, 2008, Taipei, Taiwan

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